近頃「口呼吸」がよく話題になっていますね。
コロナ禍のマスク生活で呼吸がしにくいと感じ、口呼吸になる方が増えているというニュースを見た方も多いのではないでしょうか。
「でも、口呼吸の何が悪いの?」
と思いませんか?
CPAPの治療でも推奨されているのは「鼻呼吸」。
そのため、CPAPのマスクは鼻呼吸用の鼻マスクと鼻ピローマスクが推奨されていて、鼻と口両方で呼吸するフルフェイスマスクは、鼻づまり等で鼻呼吸ができない方向けとされています。
どのCPAPマスクを選べばいいのか分からないという方はこちらの記事もご参照ください。
そこで、今回は鼻呼吸の利点や、口呼吸になってしまう原因、口呼吸を止めるにはどうすれば良いのかについて掘り下げてみたいと思います。
■目次■
鼻呼吸が推奨されるのはなぜ?
口呼吸で起こる疾患や問題とは?
なぜ口呼吸になるの?
鼻呼吸にする方法
さいごに
鼻呼吸が推奨されるのはなぜ?
哺乳類のなかで口呼吸をするのは人間だけってご存じでしたか?
口は食事のための器官、鼻は呼吸のための器官だったのが、言葉を発する人間だけが口で呼吸するようになったそうです。
鼻は呼吸器官として、口にはない以下のような機能を持っています。
① 空気中の有害物質を排除
鼻毛と鼻腔内の粘膜が空気清浄機のフィルターのように空気中の有害物質を排除。肺に空気が運ばれる前に取り除きます。
② 湿度と温度の調整
取り込む空気を温度37度、湿度100%程度の肺の中の環境に近い状態に調整します。
③ 一酸化窒素を放出
鼻から取り入れられた空気は、鼻腔で生成される一酸化窒素と一緒に肺に送られます。
一酸化窒素は肺の血管を拡張させる効果があることで知られ、一酸化窒素吸入療法という呼吸をサポートするための治療方法も確立されています。
鼻から空気を取り込むと一酸化窒素と混ざり、肺の血管が拡張するので、酸素を血管内に効率よく受け渡せます。そのため、口呼吸よりも鼻呼吸の方が血中の酸素濃度が高くなることが分かっています。
一酸化窒素は心血管の健康やメンタルヘルス、認知機能などにも関わっているとする研究が進んでいます。そうなると鼻呼吸のメリットはさらに高まるといえそうです。
逆に、口で呼吸すると以上の鼻の機能が十分に活かせないというわけですね。
口呼吸で起こる疾患や問題とは?
それだけでなく、口呼吸によって生じる問題も最近よく取り上げられるようになってきました。どんな問題があるのでしょうか?
① 口腔内に生じる問題
口呼吸で口腔内が乾くと、唾液が役割を十分に果たせなくなります。
そのため、口臭が生じたり、歯石が付きやすくなって虫歯や歯周病になりやすくなったり、口腔内に細菌が繁殖してさまざまな病気のリスクが高まったりするといわれています。
1日に1~1.5リットル分泌されている唾液には消化を助ける酵素のほか、口腔内のpHバランスを整える成分、抗菌作用がある成分なども含まれているそう。
唾液にしっかり働いてもらえるように、口腔内が乾燥しない鼻呼吸が大切なのですね。
② 感染症のリスク
口呼吸では鼻のフィルター機能が活かせないため、有害物質が肺へ届き、風邪や呼吸器疾患などのリスクが高まります。
③ いびきや睡眠時無呼吸症候群の要因に
普段から口呼吸の人は、睡眠時も口呼吸になりやすくなります。
仰向けで寝ている際に口が開くと舌の根元が沈下して気道が狭くなりやすくなり、いびきや睡眠時無呼吸症候群の要因になるとされています。
④ 顔つきの変化
成長期に口呼吸が続いて口周りの筋肉が緩むことで、顔つきにも変化が生じることがあります。それが「アデノイド顔貌」といわれるものです。
アデノイド顔貌は、一般的には口の奥にあるアデノイドが肥大することで顔つきが変わると理解されていますが、直接の原因は口呼吸。口呼吸によって下あごがうまく成長できないことで顔つきにも影響が出ます。具体的には画像のように、口が前に突出し下顎が後退したような顔つきを指します。
なぜ口呼吸になるの?
以上のように、本来呼吸器官である鼻を使った呼吸方法は口呼吸よりもメリットが多いといわれています。それなのに、なぜ口呼吸になってしまうのでしょうか?
理由はさまざまですが、基本的には以下の3つが考えられます。
① 鼻づまり
鼻づまりの原因といえば、アレルギーが代表的。花粉症などアレルギー性鼻炎の方は増加傾向にあるそうです。
そのほか、子どもなら先述のアデノイドや扁桃腺の肥大、また、成長過程で鼻の穴が曲がったり(鼻中隔湾曲症)、蓄膿症などで鼻の粘膜が肥大したりして鼻づまりが生じることもあります。
② 筋力の低下
食生活が変化して固いものを食べなくなった、コロナ禍のマスク生活で表情を作ったり会話をしたりする機会が減少した、など生活習慣が原因で顔の筋力が低下したことも口呼吸の要因と考えられています。筋力が低下することで口が開きやすくなり、口呼吸につながるそうです。
③ 習慣
意外なことに「習慣」も口呼吸の原因とされています。
鼻呼吸は口呼吸よりも気流抵抗が強いため「息苦しい」と感じがち。
マスクをして階段を上ったりしたときに無意識のうちに口呼吸になっていた経験はありませんか?
そういったことが重なって口呼吸が習慣となって定着すると考えられています。
鼻呼吸にする方法
アレルギーなど何らかの疾患が原因で鼻づまりがある場合、まずは専門の病院で治療しましょう。
① 顔の筋力トレーニング
筋力の低下などが原因で口呼吸が習慣化している場合は、口周りの筋力トレーニングが良いようです。
●筋機能療法(MFT)
アメリカなどでは、口腔環境を整えるためにのど、舌、頬、あご周りの筋肉を鍛える筋機能療法(MFT)という治療方法が確立されていて、いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療などにも取り入れられているそうです。
日本でも対応している歯科医はありますが、いびき対策で筋機能療法(MFT)を行っている医療機関はまだまだ少ないようです。
●自宅でできる顔筋トレ「あいうべ体操」
自宅でできる顔周りの筋力トレーニングとして有名なのが「あいうべ体操」。
「あ」「い」「う」「べ」と発音する際に使う筋肉を鍛える体操で、テレビなどでも取り上げられていますし、YouTube動画や書籍などもあります(※1)。
そのほか、アボリジニの管楽器「ディジュリドゥ」を演奏して上気道の筋肉を鍛えることで睡眠時無呼吸症候群やいびきが改善するという研究もあり、イグノーベル賞を受賞しています。
顔周りの筋トレ、侮れませんね。
② 寝るときも口を閉じる工夫を
寝ているときに口呼吸になってしまう場合は、チンストラップ(口を閉じるためのあごサポーター)や口呼吸防止テープといった方法があります。
これらはCPAP治療でも推奨されているのでご存じの方も多いのではないでしょうか。使用についてはかかりつけ医にご相談くださいね。
さいごに
以上、鼻呼吸が推奨される理由、口呼吸の原因や鼻呼吸にする方法についてみてきました。
人間は1日に約3万回も呼吸をしているそうです。
そう考えると、CPAP治療時以外の呼吸も含め、呼吸法って重要だなと改めて感じました。
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【参考資料】
※1
『あいうべ体操と口テープが病気を治す! 鼻呼吸なら薬はいらない』(今井一彰著 新潮社)